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銀行自身の資金繰りを読む:TreasuryとALM

預金残高が多くても、今日払える資金が足りるとは限らない。満期と金利のずれを、架空の銀行の数字で追う。

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この記事でわかること

  • 資産の総額、今日使える資金、将来の利益は別の数字
  • 預金流出から必要調達と利息費用までを因果の順に追う
  • 試算の会計イメージと、実際に記帳する約定を分ける
この記事の目次
01 / READ THE SYSTEM

1. 預金が集まる銀行にも、資金繰りがある

銀行が預金を1,000万円集めているとしても、1,000万円すべてを金庫に置いているとは限りません。短期で貸したり、貸出など別の資産に形を変えたりしています。資産が十分にあることと、今日の払戻しに使える資金が十分であることは、違う問題です。必要なときに支払える力を、流動性と呼びます。

Treasuryは銀行自身の資金繰りを扱う機能、ALMは資産と負債の期間や金利のずれを合わせて考える管理です。MiniBankのv13は、総勘定元帳から現金、中央銀行預け金、短期運用、預金、借入などを読みます。預金は銀行にとって返す義務であり、その払戻しにどの資産を使うのかを銀行の側から眺めます。

ここでいう中央銀行や短期市場は架空です。実際の市場データAPIは使わず、固定した市場シナリオで学びます。数字を細かくするより、「なぜ足りなくなり、どう埋めると費用が増えるのか」を説明できることを優先した模型です。

出典:v13の範囲と元帳から読む資金ポジション(非公開GitHub・要権限)

02 / READ THE SYSTEM

2. 満期のはしごで、いつ足りないかを見る

今日使える100万円と、1年後に戻る100万円は、同じ金額でも払戻しへの備えとして違います。満期のはしご、つまりMaturity Ladderは、入ってくる資産と出ていく負債を、時期ごとの箱に分けた表です。MiniBankでは翌日物、2〜30日、31〜90日、91〜365日、1年超という区分を使います。

各箱の資産から負債を引くとギャップ、手前から積み上げると累積ギャップです。たとえば説明用に、30日以内に戻る資金が200万円、出ていく資金が350万円なら、その区間は150万円の不足です。90日後に500万円戻る予定があっても、最初の30日をどう乗り切るかは別に考える必要があります。

普通預金には、利用者がいつ引き出すかという不確実さがあります。v13では70%が長く残る「コア預金」だと仮定して1年超に置きます。これは契約上引き出せないという意味ではなく、行動を単純化した仮定です。安定的とみなす割合を大きくすれば見た目は安心になりますが、その仮定が外れたら短期の不足は増えます。表の数字と同じくらい、箱へ入れる規則を読むことが大切です。

出典:期間区分とコア預金70%の仮定(非公開GitHub・要権限)

03 / READ THE SYSTEM

3. 20%の預金流出を、順番に計算する

画面に用意された説明用の架空銀行を使います。普通預金1,000万円、定期預金200万円、流動資産250万円、中央銀行預け金250万円、コールローン700万円、既存の借入0円です。コールローンは架空の短期運用であり、顧客へのv14融資とは別の資産です。この例では流動資産とコールローンを別の入力として与えています。

普通預金の20%が流出すると200万円が出ていき、普通預金は800万円、流動資産は50万円に減ります。残った普通預金800万円と定期預金200万円の合計1,000万円に対して、模型の方針である20%の余裕資金を持つなら、必要な流動資産は200万円です。手元は50万円なので、不足は150万円になります。

01預金の流出普通預金から200万円出る
02流動性の低下250万円から50万円へ
03必要な余裕資金残存預金の20%=200万円
04不足の調達200万円−50万円=150万円

重要なのは、200万円が流出したから200万円を借りる、とは決まらないことです。すでに持つ流動資産と、流出後に必要な余裕資金の差で決まります。また、預金がゼロになれば比率の分母がなくなるので、比率を無理に0%や100%と解釈しません。

出典:画面に示されたWhat-ifの架空銀行(非公開GitHub・要権限)

出典:run_scenarioの流出・バッファ・調達計算(非公開GitHub・要権限)

04 / READ THE SYSTEM

4. 資金不足を埋めると、利益も変わる

基準シナリオの政策金利は0.25%、調達に上乗せする金利は0.10%です。先ほどの不足150万円を年0.35%で借りると、模型の1年分の調達費用は5,250円です。これは実際の借入契約を成立させた費用ではなく、同じ条件が1年間続くと置いた試算です。

費用だけで終わらず、受取利息も追います。流出と調達で中央銀行預け金が変わり、預金減少で支払う預金利息も変わります。同じ入力と基準シナリオを式に当てはめると、流出前の年間資金利益は2万3,250円、流出後は1万7,150円で、差は6,100円です。追加調達費用の5,250円と差額が同じではないのは、収益とほかの費用も同時に変わるからです。

計算の内訳もページ内で確かめられます。この例は追加の金利ショックを0とし、BASEの年利を使います。中央銀行預け金は0.25%、コールローンは0.30%、普通預金は0.02%、定期預金は0.10%、新しい借入は0.35%です。流出前の受取利息は250万円×0.25%+700万円×0.30%=2万7,250円。支払利息は1,000万円×0.02%+200万円×0.10%=4,000円なので、差引きは2万3,250円です。

流出と調達の後の中央銀行預け金は、250万円−200万円+150万円=200万円です。受取利息は200万円×0.25%+700万円×0.30%=2万6,000円。支払利息は800万円×0.02%+200万円×0.10%+150万円×0.35%=8,850円です。したがって資金利益は2万6,000円−8,850円=1万7,150円となり、元の2万3,250円から6,100円減ります。

資金利益はNIIと呼ばれ、受け取る利息から支払う利息を引いたものです。銀行の最終利益そのものではなく、人件費や税などをすべて含む数字ではありません。「流動性は回復したが利益は下がる」という関係を読めることが、この例のねらいです。

出典:固定金利と年間NIIの計算式(非公開GitHub・要権限)

05 / READ THE SYSTEM

5. 金利が上がれば銀行が必ずもうかる、とは言えない

金利の変化も資産と負債の両側へ伝わります。中央銀行預け金や短期運用の受取利息が増えても、借入の支払利息や預金の金利も増えれば、差し引きは別です。どちらが早く、どの程度動くかを見なければ結論は出ません。

v13には「預金ベータ」という仮定があり、追加の金利ショックの30%を普通預金金利へ反映します。たとえばBASEを選び、追加ショックを100bpにした場合、100bpは1.00パーセントポイントなので、普通預金金利は0.02%から0.32%へ動きます。定期預金は満期まで固定という単純化です。市場シナリオの選択と追加ショックは別の入力なので、どちらを変えた比較かも確認します。

このように金利の追随を弱く置くと支払利息は抑えられますが、v13の単純な試算だけでは「金利が魅力的でないため預金が減る」ところまで自動的にはつながりません。預金流出率は別に与えます。価格差が預金量や貸出需要へ伝わる月次の模型はv20で扱います。版ごとの境界が分かると、結果の読み過ぎを防げます。

出典:市場シナリオと追加ショック・預金ベータ(非公開GitHub・要権限)

出典:v20で追加された価格から数量への因果(非公開GitHub・要権限)

06 / READ THE SYSTEM

6. シナリオの仕訳イメージと、約定の記帳を分ける

シナリオの結果には、預金流出、不足資金の借入、利息支払に相当する会計の動きが出ます。しかし計算ボタンだけでは正式な元帳へ記帳しません。記録するのは試算の入力と結果です。「借りたらどうなるか」と「借りた」という二つの事実を区別します。

これに対して、Treasuryの約定は、短期資金を借りる、または運用する業務です。管理責任者が約定し、Posting Engineを通じて、中央銀行預け金と借入金、または短期運用資産を記帳します。取引明細と総勘定元帳を照合するので、数字だけを書いて明細を残さない経路にはしません。

v17以降は、資金の運用や借入返済で中央銀行預け金を負にしない残高検査や、汎用の取消しで約定を置き去りにしない制約が追加されています。一方、決済時に約定期間の利息をまとめて記帳する簡略は残ります。満期前の決済でも期間全体の利息を扱うため、実際の金融商品の精算方式だと考えてはいけません。

出典:シナリオと約定の会計上の違い(非公開GitHub・要権限)

出典:Treasuryの補強と残る簡略(非公開GitHub・要権限)

07 / READ THE SYSTEM

7. ALMの表は、置いた仮定まで含めて読む

この模型の利点は、元帳から出発し、流出、流動性、不足、費用、利益までを途中で説明できることです。反面、1年の単純利息を使うため、金利の期間ごとの違い、債券価格の変化、複雑な行動モデルまでは扱いません。表示される流動性比率は教育用の割合で、規制上のLCRやNSFRではありません。

さらに、v14の顧客向け貸付金はこのv13の流動資産に数えず、返済見込みも計算へ入っていません。v19のグループ内債権・債務も、Treasuryの調達総額や満期のはしごに含まれません。画面を一つにまとめても、すべての資金移動を自動的に取り込めるわけではないのです。

読むときは、まず出発点が実績の元帳か、説明用のWhat-ifかを確かめます。次に、流動資産の定義、満期の置き方、流出率と金利の前提を見ます。最後に、この結果を受けて実際の業務を変えたのか、計算を保存しただけなのかを分けます。この三段階を守ると、小さな模型でも資金繰りの問いをかなり深く考えられます。

出典:1年単純利息と規制指標の対象外(非公開GitHub・要権限)

出典:顧客向け貸出の返済を含まない説明(非公開GitHub・要権限)

出典:グループ内勘定をALMに含めない限界(非公開GitHub・要権限)

SOURCE NOTES

出典と、確認できた範囲

コードの説明と、稼働環境の検証を分けます

以下のリンクは非公開GitHubへの出典で、閲覧権限が必要です。本文はリンク先を開かなくても読める構成です。固定コード・設計資料を参照していますが、今回、この読み物のために銀行の取引やDB操作、本番試験は実行していません。実装や資料にある検査と、こちらで実施した検証を混同しないようにしています。

  1. v13 Treasury / ALM導入資料 ↗(非公開GitHub・要権限)
    目的、満期区分、仮定、試算と約定の区別
  2. v13の計算実装 ↗(非公開GitHub・要権限)
    預金流出から資金利益までの式と固定市場データ
  3. Treasuryの画面 ↗(非公開GitHub・要権限)
    What-ifの例題とv14貸出を含めない境界
  4. 後続版でのTreasury補強 ↗(非公開GitHub・要権限)
    残高検査、専用業務経路、約定利息の簡略
  5. グループ拡張の限界 ↗(非公開GitHub・要権限)
    ALMがグループ内勘定を含まないこと
  6. Digital Twinの因果 ↗(非公開GitHub・要権限)
    価格と数量を結びつける後続模型

MiniBankは学習・検証用の銀行アプリです。架空の金額や人物は、仕組みを説明するための例です。

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